弁護士桑田の活動日誌
2020年5月8日 金曜日
住人が不明な場合の建物明渡2
皆さん,こんにちは,弁護士の桑田です。
今回のテーマは、前回に引き続き、誰が住んでいる分からない建物の明渡しについてです。
今回は、債務者不特定の場合の占有移転禁止の仮処分を申し立てる際の注意点を説明します。
まず、一番の注意点は、申し立てる側で可能な調査は十分に行うことです。
執行官が債務者を特定するといっても、あくまで例外的な扱いであり、簡単に申立てが認められるものではありません。
最低限行うこととして、申立人や代理人による居住者の事前調査が挙げられます。
マンションですと、例えば集合郵便ポストに名前が書かれていないことや玄関の表札からは居住者が分からないことなどを写真撮影報告書などで説明する必要があります。
前回の設例のような場合は、知れている債務者である借主に連絡を取り、誰に転貸しているのかもあらかじめ問い合わせることになるでしょう。
それでも賃借人が「忘れた」とか「自分も正確な名前は知らない」といった返答をされたことをもって、居住者の不明が裏付けられます。
貸主が借主の同意を得て、建物内部を調査しておくことなどもできればよいです。そうすると、内部が細かく仕切られているといった様子が分かり、これも撮影しておいて、後日写真撮影報告書として、申立書と一緒に疎明資料として提出できます。
裁判官面接の前に、書記官、執行官、執行補助者との間で、種々の調整をしておくことも大切です。
保全の場合はどの場合もそうですが、債務者不特定の場合は特に例外的な扱いですので、事前の調整が重要になります。
次に、仮処分に要する費用についても注意が必要です。
仮処分は正式な裁判を経ていない「仮」の処分のため、居住者に不当な損害が生じたときのための保証金を供託する必要があります。
通常は大家さんの側が勝ちますので最終的には戻ってきますが、一時的には準備が必要になります。
一般的には賃料の2か月分程度でしょうが、居住者が何人いるか不明ですと、その分供託金も増額されます。
その仮処分を担当する裁判官の裁量によりますので、裁判官と十分に打ち合わせをすることが必要になります。
執行官のほかに執行補助者として業者の方が同行します。実務を担当する業者で鍵屋さんなども手配してくれますが、執行業者の費用も発生することにご注意ください。
供託は法務局で行います。供託金は債務者ごとに分けて供託するか、裁判所に確認してください。
供託申立書や弁護士に依頼する場合の委任状は、債務者不特定の場合特有の記載方法がありますので、事前に法務局とも打ち合わせることが大事です。
また、保全命令は発令されると、相手方である債務者への送達も必要となりますが、債務者が不特定の場合は通常の送達は困難になります。
そこで、執行官が建物を訪問すると同時に債務者に手渡しして送達することになります。
そのためには、申立てと合わせて同時送達を申請する必要がありますので、この点も忘れないでください。
最後に、マンションの中には管理人さんが常駐するマンションも多数あります。
マンションの一室での執行がスムーズに進むために、あらかじめ管理組合や管理会社に執行の予定があることを(秘密保持に注意しながら)伝えておくことも
よいのではないかと思います。
このように,債務者不特定の場合の仮処分には,裁判所にとっても例外的な取り扱いのため,注意すべき点が多くなります。
もし,氏名不詳の住人に明渡を求めたい場合は,仮処分の経験のある弁護士桑田にお気軽にご相談ください。
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