弁護士桑田の活動日誌
2021年3月24日 水曜日
マンション理事会の録音データと文書提出命令
皆さん,こんにちは,弁護士の桑田です。
今回のテーマは,マンションの理事会の議事を録音した録音データが文書提出命令の対象となるのか,についてです。
理事や区分所有者が管理組合を何らかの理由で訴えた場合に,原告から被告である管理組合や管理会社に対して,理事会の録音データの開示が求められることもあります。
そして,裁判においてて録音データの提出が申し立てられた場合に,管理組合や管理会社がその義務を負うのかが,問題となります。
まず,文書提出命令というのは,民事訴訟において,相手方や第三者が所持している文書について,裁判所に提出命令を申し立て,認められれば,相手方や第三者は所持する文書を提出しなければならないとされる裁判上の制度です。
録音データは文書ではありませんが,民事訴訟上,準文書に含まれ,文書と同じ扱いとなります。
もっとも,文書がいつでも提出義務の対象となるわけではなく,例えば,公務員の職務上の秘密に関する文書や刑事訴訟に関する文書は提出義務を免れます。
そして,「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」(自己利用文書と言います)も,提出義務を免れる例外として扱われますが,自己利用文書に該当するかどうかは解釈上困難な場合が多く,これまでももっとも多くの議論がされたところです。
近時,私が担当した事件でも,マンション理事会の録音データの文書提出命令について,自己利用文書かどうかが争われましたので,ご紹介します。
この事案は,役員の一人が,自らも出席していた理事会の議事録等の記載によって名誉が毀損されたとして損害賠償を請求した事案にあって,議事録の記載の真実性を確認するために,管理会社に対し,理事会の録音データの提出を求めたというケースです。
私も(管理組合の代理人を務めることが多いのですが)この事案では名誉棄損該当の可能性があるとして,役員の代理人として,文書提出命令を申し立てました。
この事例では,管理会社は,①議事録案作成のために録音していた,②理事会出席者から議事録案について疑義が出された場合にはその理事会出席者が立ち会った状態で録音内容を確認するために録音している,と説明していました。
そのため,裁判所は,録音データ作成の経緯や目的からして管理会社の内部だけでなく外部である理事会出席者に開示することが予定されており,自己利用文書には該当しないと判示しています。
また,理事会に出席していた役員に開示したからとしても,理事会の議論が阻害される等の不利益もないと述べた上で,理事会の録音データを提出せよという旨の命令を出しました。
つまり,結論として,理事会の録音データの開示が認められたのです。
しかしながら,理事会や管理会社としては,むやみに理事会の録音データが開示されては,円滑な議事進行の妨げとある可能性は十分にあります。
そして,この事案から,管理組合や管理会社は,例えば「後日,疑義があった場合に疑義を申し立てる役員の立会いの下で録音データを確認させる」といった,自己利用文書性を自ら否定するような不用意な説明は避けなければならないことが分かります。
もちろん,実際に,そのような対応は取らないようにすることになります。
もっとも,理事会の録音データをどのように扱うべきか(逆に,理事会側が録音データを裁判所に提出してよいか)など,判断に迷うことは多々発生することと存じます。
そのような場合には,私宛にお気軽にご相談ください。
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